春先のにわか雨
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2013
06,02
無題
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【水桜祭都~吾に希む~】
後日談。
(閲覧注意)
アクエリオのさびれた観光地に建つ、赤レンガ造りのホールで行われる合唱団の集まりは、普段にもまして人数が揃わず、ひととおりの発声練習をこなしたあとは、おしゃべり会になって終わった。
アクスヘイムの屋敷に住み込んで料理人見習いとなったフォシーユも、そう簡単に都合はつかなくなってしまった。今日はたまたま午後の予定を融通できたものの、着替えの時間が取れず、仕方なくお仕着せのまま飛び出てきていた。
黒い上下、白いシャツ、黒いタイ。制服は誇らしいが、この手の服を着こなすにはいささか肉体のボリュームが足りないのは自覚している。団員のマダムたちにやむを得ず披露した仕事着は、屈辱的な評価を受け、さんざんに笑われた。
茶菓子にと用意していった晩柑の砂糖漬けは概ね好評で、口に入れるやいなや、やれこれからの季節にはヨーグルトを添えろだの、いやクレープに包んでショコラ掛けでしょ、それよりも絞りたて果実水に砕いた氷と一緒に入れてクリームとミントを浮かべたら素敵だわ、などの提案までいただいた。作ったものに遠慮のない意見をもらうのは緊張するが、その分張り合いも生まれて楽しい。
甘味が行き渡ったあとはひたすら相づち役を演じるティータイムも、あまり長居していては夕食の準備に間に合わなくなる。給仕さんまた来てねと野次を背に受けながら、少年は赤レンガのホールを後にした。
玄関を出ると青々としたイチョウ並木の向こうに、綿を薄く伸ばしたような雲が一面に広がっている。朝のうちは淡い色の空に丸い雲がのんびり浮かんでいただけだったのに。ドロースピカの透かす天井とは知りつつも、変わりやすい春の空を惜しみながら、船を繋いだ桟橋へ向かった。
曇天を映す水面は磨きあげた銀盆のように光り、なめらかに揺蕩う。
張り巡らされた水路が運ぶ湿気のおかげだろうか、アクエリオは声が出しやすい。聖霊ディオスの宿るゴンドラを歌で操るというのも、趣があると同時に的確な手段に思える。
水中から突き出した杭と船とを繋ぐ縄を解いて、馴染んだ木の底にブーツの足を下ろした。からっぽの籐バスケットと譜面挟みを座席に置き、船尾の定位置へ着いて櫂を手に取る。
装飾を排した黒いゴンドラ。2年前、自由の喜びよりも不安と惑いが勝っていた少年に、なめらかな曲線で構成されたこの手こぎボートは、自ら舵を取る楽しさを教えてくれた。はじめは公の場で声を出すのが憚られたものだが、初めて得た財産が嬉しくて、買い物に散歩にと漕ぎ出しているうち、今では戸惑いよりも愛着が上回っている。
問題なく声は出るはずだ。軽くあごを上げ、深く息を吸う。
それから一気に、出しうる限りの音階をなぞりあげた。
幼くもなく成熟もしきれていない歌声が、人気のない係留場に拡散して消える。ガラスのささやきと称された高音はとうになく、しかし避けられない喪失がもたらしたかすれ声が落ち着きはじめると、半回りほど下がったよどみない清けさの中に、すべらかな艶めきが加わって、低音部をほのかに甘く響かせる。
子どもから青年へ、ゆるやかに変化する途上の若い声。それを彼はごくつまらないものといいたげに、不機嫌にすら見える仏頂面で吐いた。
出し切った息の終わりに軽く櫂を押す。動き出した船にかかる力を足を突っ張って耐え、慣れた手つきで船首を巡らせれば、ゴンドラは難なく陸から離れた。
ゆっくりと聞こえ始めた波のさざめきに、ゆるく抑揚のない旋律を選び、身に染みついた祈祷文を乗せる。足元の小舟にだけ聞かせる声量で口ずさみながら、フォシーユは水の路を滑り出した。
頭上に気をつけながら太鼓橋をくぐるたびに、細い水路が合流する。やがて大小とりどりの船が行き来する大運河に交わった。
アクエリオの水路は交通網である以上に、人々の生活と一体化している。波音を伴奏にした舟歌に混じって、両岸に立ち並ぶ商店の呼び込み、観光地を案内する船頭の朗々たる解説と客のお喋り、水上で商う店番の怪しげな謳い文句、大型貨物船のさきぶれ、行き会った人々の交わす挨拶、窓辺で干した布団をたたく音、橋で遊ぶ子どもたち。生きる音の重奏。単なる人混みであれば辟易してしまうところだが、ここに音がなければ味気ないに違いない。
そんな中、ひときわ高く突き抜けてくるのは、年若いゴンドリエーラの歌声だ。数多い観光ゴンドラの漕ぎ手たちの中でも、声も見目もよい少女たち。囀る鳴鳥のような可憐な声で操られる観光船の前では皆が息をひそめ、その行く手を空けるという随一の花形職。けれど人々を熱中させる華々しさの裏側で、彼女たちの感情とそれをとりまく環境は、この都市に絡み付いた『棘』の糧になってしまった。仮面を被って後戻り出来なくなった少女のひとりを、水上迷路に沈めた記憶はまだ褪せない。
水神祭都に育った者ならば誰もが一度は憧れるという、ゴンドラ協会の制服は見えなかったが、よく通るソプラノは誇らしげに響きながら遠ざかっていった。
緑の瓜を満載した貨物船の前に合流の機を見出して、息を継ぎ強めに吐いた音で速度を上げ、力一杯櫂を押しながら飛び込む。ざばりと心地よい音をたてて、反り返った金属の舳先が水を切った。
しばらくは流れに乗って道なりに。
歌を止め、櫂をこぐのに専念すれば、周囲に目を向ける余裕も出てくる。船上を通り抜ける風はいささか肌寒く、弱い日差しに透ける色の髪を乱暴に吹き乱した。はためく燕尾の滑稽さも忘れるほどに、目の前のものを置き去りにする心地よさに目を細める。波紋重なり合う水面に映る空に青色はないが、屋根を駆けるスカイランナーの気分はこんなものかなと、ひとり薄く笑う。
きらめく飛沫に先日訪れた雪解けの湿原を思い出す。水辺はいい。きれいで、流れがあればなお。手を浸さなくても眺めるだけで、内に抱くものを流し去ってくれそうな気がする。
喧噪を背にして大運河からひとつ分岐し、もうひとつ角を曲がった。速度を緩め丁寧に舵をとり、慣性を体感でコントロールして細い水路にすべりこむ。と、建物の向こうに広がっていた景色が予想と違った。
(あれ?)
うわの空で船を走らせているうち、間違えて知らない路に紛れ込んでしまったようだ。似たような景観が続く水路に惑わされるのはよくある。ゴンドラ散歩を嗜む者として、こういうときは慌てず騒がず、落ち着いて案内板を探せばいい。
しばし進むと、また広い水路に出た。もう完全に普段通る路ではない。焦る心で見渡した風景は、運河沿いの遊歩道に植えられた木々の列。ふと心当たりがあって、フォシーユは数回瞬いた。水路の端に船を寄せ、漕ぐ手を止める。
思い出した。市街地から郊外の丘に向けて続く二重の並木道。水上から見ると右から左になるか。ここは春も盛りの頃、ちょっとした祭りがあると伝え聞いて、なんとなくひとり足を向けた場所だ。
こぼれんばかりに咲き誇っていた薄紅の花は、今やすっかり葉桜に変わっていた。繁る楕円の葉は瑞々しい黄緑色を重ね合わせ、濃く浅く、豊かな緑の色合いを見せている。川沿いを吹き抜ける風が水面に天地逆さまに映る細枝を揺らして、さわやかな葉擦れの音が耳に届く。
(……春は、短いな)
あの日、桜の花舞うトンネルの下で、花弁を杯に受け、ひと息に飲み干せば願いが叶うという桜茶を受け取った。あれからまだひと月ほどしか経っていないというのに、もうずいぶんと昔の出来事のように感じる。
屋敷の仕事は時間に追われて慌ただしく、また仕事の合間を見つけては終焉破壊の依頼に没頭した。心底で命の危険すら求めて。受けた傷の痛みで生の実感、溜った疲労で深い睡眠を得る日々は、感傷を振り払うには実に都合がよかった。
自らを翻弄する熱の出口を、彼は見つけられなかった。欠落と空白を埋めたいと伸ばした指先を握り込み、喉は詰まらせたままついぞ鳴らず。都合のいい人間であろうとしたこともあったが、別の誰かのためだけに祈れるほど、悟った聖者のような在り方をするには若すぎた。醜悪な毒にむしばまれて、息をするたび苦悩は増えるばかり。だから願ったのだ。もうなにも望まないから、楽になりたいと。
もう氷の底に風の音は届かない。わずかな音も余さず拾い上げようとしていた五感は遠ざかり、見えるものはすべて薄紗の向こう側にあるようだ。ときおり手足や思考すら鈍く、現実感が伴わずにいるほどに。まるで、自由のなかった昔のよう。けれどもそのおかげか、辺境の天候のようにめまぐるしかった感情も、今はさざ波ほどの平坦さを取り戻していた。夜も薬湯の力を借りれば、いつもの悪夢が来る前に眠ってしまえる。花嵐にあふれさせたものと引き替えに、願いは叶ったように思えた。
緩やかに上下する船に身を任せながら、黒衣の少年は青葉より淡い色の目を伏せた。未熟で荒々しい情熱に突き動かされた鼓動を噛み潰した跡に、砕けた音の残響がどこまでもやさしく広がっている。薄闇の中で遠くに見つけた光のしるべ、美しくさざめく音、色鮮やかだった日々が、確かにあった証。
巡った時間と多くの出会いから、少年はさまざまなものを得た。自由に感情を表せる平穏な生活、目に映る理不尽に悲しみ憤り、剣を取って掴んだ勝利に湧く充足感。命を目の前で失った悔しさと、諦めないための強さ。柔らかかった頬から子どもらしさが抜け、繊細な地声は憂いの潤いを帯びてわずかに低くなり、背丈もたぶん伸びた。
そしてなにより、なにかを大事に思うこと。自分が持たぬとばかり思っていた、甘くて苦い複雑なものの味。この世で最も疎み、最もこいねがうものの種が、己のひび入った身体の中にも埋もれていたのだと知った。
薫る風に乱された髪先に手櫛を通し、フォシーユはため息をつく。帰ろう、仕事に遅れてしまう。心乱すもののない、凪いだ日常へ。無愛想な素顔のうえに、温和な微笑の表情を被る。
新緑がいっそう濃さを増す、水神祭都の晩春。
薄曇りの下でもなおつややかな色の木々から顔を背け、櫂をひと漕ぎ。少年は再び青い声を響かせながら、帰路を目指した。
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