春先のにわか雨
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2013
06,30
無題
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【
渇きの花
】に附する回想。
初夏の白く強い日差しが、オリーブ繁る小高い丘を照らしつけている。
乾いた風がさらりと緑の葉を撫でていく中、畑にひとすじ通った道を、手提げ籠を抱えた子どもがひとり、下りていく。
道の発端である丘の上には、さわやかに晴れた青い空を背景に、明るい砂色の石でできた修道院が建っている。ぐるりと巡らされた高い壁の向こうに、特徴的な尖った屋根が見えた。そこから伸びる白茶けた舗装道は、多少土に返り経年を感じさせる箇所もあるが、馬車も十分通れるだけの幅がしっかりとある。人や馬の足、風雨にすり減った石畳に、高く昇った真昼の太陽が照り返してまぶしい。
子どもは身につけた黒い僧服で、一見して修道生活を営んでいる少年だと分かる。無地の質素な布で仕立てられたその上に、頭巾のついた同じく黒いマントを羽織っている。強い光を避けるために深く被ったフードからは、その表情は伺い知れない。
少年はオリーブ畑から繋がる丘のふもとにある職人区画に、修道院で作られた薬類を届けに行くところだった。ほっそりした小柄な身体には大きいように見える籠の中には、薬草酒の革袋や軟膏を詰めた小さな陶器、乾燥させた種々の草束が入っている。たいした量は入っていないはずだが、少年は随分と重い物を持っているような足取りだった。素足に履いた簡素な革のサンダルは大きさが合っておらず、足元が覚束ないのはそのせいか。時折、照りつける陽が落とす小さな影が危なっかしく揺れた。
丘は低く、なだらかで、ふもとの街まではかなりの距離がある。普通ならば馬を使って行き来するようなところを、なぜ馬にも乗れない子どもに使いを任せたのかは分からない。フードの頭は下を向くだけで、乾いた風に灰緑の葉をひらめかすオリーブの木も、気持ちよく晴れた青い空も、目指す街のどれにも興味を示すことはなく、ただ黙々と歩くことにのみ集中していた。
しばらく道を進んだ先で、少年は足を止めて籠を道に置き、ひとつため息をついた。晴れていても風が乾いているから、汗が滲むほど暑くはない。だが被ったフードに熱がこもってきている。すこしなにかを逡巡した後、たどたどしい手つきで黒い頭巾を外した。
陽を透かす、ごく淡い色の髪筋がするりとこぼれ落ちる。眩しさに険しく細めたまぶたを縁取るのは象牙色の睫毛。その長く落ちる影の下で、白ぶどうの果実のような、明るい黄緑色の瞳がまたたいた。
年間通じて降る日差しの強さからか、濃い色の髪と目を持つ人々が大半のこの土地で、非常に珍しい薄い色の人間。少年がフードで頭を隠しているのも、この外見が集団の中で目立ちすぎるからに他ならない。目立つということは、時と場合によっては決してよい意味ではなくなる。
少年はすがめた目で、茫と道の先を眺めた。からりとした微風に細い髪が吹かれて、青ざめた頬を撫でる。顔色は悪く、つやのない唇をわずかに開け、ぬるい疲労の息を吐き出すさまはお世辞にも健康的とは言いがたかった。黒い僧服と対比した白い肌がいっそう病人めいていて、強い日射しに溶けてしまいそうにはかない。真っ当に育てば無邪気な活力に満ちているはずの年頃であろうに、柔らかな色合いの目には意思の光は薄く、虚ろ。なにか、深刻な陰が、暗雲のように少年の全身を覆い尽くしているようであった。
表情らしい表情も浮かべずにいる幼い修道士見習いは、金の油を生み出すオリーブの木々、祝福された恵みのただ中にあって、ひとり緑の絶海に取り残されているようにすら見えた。
簡単な使いとはいえ、修道院のれっきとした労務である。決まった祈りの時間には戻ってこなければならず、あまり悠長にしているわけにもいかない。つかの間の休憩に再び籠を持ち上げ、ふたたび歩き始めようとしたとき、鋭敏な耳が聞き慣れない音を拾う。
見れば、ふもとから一台の馬車が上がってくるところだった。派手な服の御者が操る、四頭の白馬に引かれた白い箱馬車。金属の飾りかなにかが陽を反射してきらりと光り、屋根の四隅には大きな羽飾りが揺れているのが遠目にも分かった。
祈るためなら街中にも礼拝堂はいくつもあるというのに、中心部からずいぶん離れたこの場所にも俗世からの客人が訪れるのは、やはり貴重な古書や聖者の遺物を収めた、国内最古の聖堂があるからだろう。
国民の大半が生活の一部として信仰に寄り添うなかで、建てられた当時の姿をほぼ完全に残す美しい聖堂に、遠方からも人々が訪れるのは別段珍しいことではなかった。だがそれはたいてい決まった祭りの日か、主日に行われる礼拝に参加するためであって、今からでは曜日も時刻も合わない。
見るからに裕福そうな立派な馬車。院長さまの、お客だろうか。そんなことをぼんやりと考えているうちに、馬車の音は近づいてくる。老爺のようなオリーブの幹が生えているあたりまで、身体をひきずるようにして下がった。できるだけ己の外見が人目に触れぬようにと、フードをかぶり直して顔を伏せる。
車輪の音は軽快で、さほど速度を出してはいないようだ。馬車の立てる埃が入らないように、マントで籠の口を覆う。腰を曲げ待つ時間がじっとりと長く感じた。
地を伝う振動とともに、白馬の蹄と黄金色の車輪が通過していく。馬の荒い呼気、御者がぴしりと馬を打つ鞭の音に身がすくむ。砂礫がサンダル履きの足元に飛んでくる。道端の人間など意にも介さないというように、馬車の重量感が小さな身体を無遠慮に震わせた。
じっと道端の乾いた土を見ていた彼は気付かなかった。蔓草模様の彫刻で飾り立てられた馬車のガラス窓から、数瞬、覗く視線があったことに。
花冠柄を散らした繻子織りのソファ、花園を羽ばたく蝶のように襞をとったカーテン、柔らかく靴裏を包む毛足の長い絨毯。馬車の内装はすべて淡い若葉色を基調にした濃淡で染め上げられている。優しい翡翠色の壁掛け花瓶には開いたばかりの金の薔薇が生けられて、外の乾燥した空気など知らぬとばかりに、甘く優しい芳香を漂わせていた。魔術的な細工で、内部は適度な室温に保たれているのだ。
最上級の技術と気遣いで作られたクーペ型の馬車は、多少朽ちた舗装の上を走っても不快な振動はほとんど感じない。けれども朝露光る蜘蛛の巣のように水晶のビーズを散りばめた、レースのクッションに身を沈めていた少女は、なにかを感じてふと顔を上げる。艶やかな甘いシナモン色の髪が、首の動作につられて、ふんわり膨らんだ肩から胸もとへ流れを変えた。
贅をこらしたシルクのドレスは馬車の内装と同じく若葉の色。虹色に光る貝ボタンや、軽やかに波打って重なる袖のフリル。少女らしくすこし丈を詰め、歩けば優雅なシルエットに広がるスカートには光の加減でようやく見える小花の刺繍がふんだんに施されている。胸元に留められた小振りなブローチは縞瑪瑙に花束を浮き彫りにしたカメオ。小粒の真珠で囲ったブローチ枠はシンプルだが、若き令嬢にはきらきらしい装身具など不要だ。
丸みを多分に残した優しい面立ちのなかに、深い森の色に似たエメラルドの瞳を持つ少女は、膝の上に乗せた薄茶の小型犬の背をくすぐりながら、ゆるやかに流れていく外の景色に目をやった。四角に切り取られた窓からは、国で一番古い修道院の塔がよく見える。砂色の建物に、広がる緑の丘、澄んだ青い空のコントラストは、わが生まれ故郷ながら美しい景色であると、いつも思う。
「ねえ、人がいたわ。子どもよ、エティエンネット。黒い服を着ていたの。修道士かしら」
馬車にはもうひとり同乗者がいた。極上の小鳥が囀るような声を上げて、逆の窓に額を押し付けんばかりにかじりついていた少女が、喜色を浮かべて勢いよく振り返る。真黒の長い髪がひらりと宙を舞った。
紅を引かなくとも紅薔薇色の小さな唇と、白金色にも見える銀瞳が、闇色の髪に囲まれた幼くも品のいい輪郭のなかに絶妙なうつくしさで配置されている。やや異国風に線の強い、愛らしさよりはかしこさを感じさせる黒髪の少女は、頬を桃の実のように上気させ、白いタイツの膝で空色のスカートの端を蹴上げた。
ふたりとも伸ばした髪は子どもらしく結わずに垂らし、緑と空色、色違いのリボンで飾っている。白い馬車はさながら咲き初めの花を運ぶ花籠であった。
「まあ。修道士は皆大人だと思っていたわ」
馬車のあるじ、エティエンネットは目の前の幼馴染に視線を戻し、穏やかに微笑んでみせた。黙ってさえいれば美徳になり得る外見に恵まれたこの友人は、10歳の誕生日を迎えて半年経ったというのにやんちゃな盛りのままだ。白いレースを首輪がわりにし、膝の上で縮こまっている愛犬フールシュはこの幼馴染に手酷くいじめられて、決して彼女に近寄ろうとはしない。おびえて震える小さな命が哀れで、なめらかな毛並みを優しく撫でてやる。
「楽しみだわ楽しみだわ。そう、司祭さまは今日どんなお話を聞かせてくれるのかしら。何人ものお妃に毒を飲ませた王様の物語? それとも花で息を詰まらせた美食家の人生?」
細い肩を自ら抱きしめて、うっとりと夢見る表情を浮かべる幼馴染を眺めて、司祭さまはそんな話はしなくてよ、とエティエンネットは心のなかでつぶやいた。彼女はこれから尋ねる司祭にひと目会ったときから夢中で、朝から普段以上に浮ついているのだ。エナメルのベルト付き靴をばたつかせながら、砂糖菓子でできたベルのような声で喋り続ける彼女を無視して——いつものことだ——子どもがいたという側の窓に寄り、外を覗き見る。一面に広がるのオリーブの木の他には、動くものの姿は見えない。
(一瞬、感じたのは何だったのかしら)
遥か先祖が天の光から授かったという、近い未来の変化を見通す目。さきほど感じた胸騒ぎは、同じ目を持つ母や姉たちと間近で話しているときにだけ、感じる圧迫感に似ている気がした。この目が一族の女性に多く発現するのは知っている。ならば隠された血縁者があそこにいたのだろうか。光から天啓を受けた、例外の男の子がいたとでも?
馬車の後方はもううかがえない。御者に馬を止めさせることもできた。しかし今すぐ幼馴染の機嫌を損ねて気弱な愛犬をいっそう怯えさせるのはかわいそうだし、なにより約束に遅れては、お忙しい中時間を割いてくださる司祭さまに迷惑が掛かる。
冷静な判断を下しながら、けれどもエティエンネットの心は静かに高揚した。伝説に語られる姉妹姫から繋がる血縁者以外に、同じ能力をもつ同胞の話は聞いたことがなかった。見えるものは良いことばかりではない。ものごとの終わりが見えてしまう苦悩を、分かち合える他の誰かは、探せば他にもいるのだろうか。
「だったら楽しいですのに」
思わず緩みそうになる口元を袖口で隠し、エティエンネットはこんもり繁った常緑樹の海から、近づいてくる聖堂の尖塔へ目を移した。4人いる姉たちとも、支配者の血統に並んで連なる以上、いつまでも無邪気で笑いあえるわけではない。家族と別れ別れになったとき、同じものを見れる者が傍らにいれば心強いではないか。大人びているようでいて、末っ子で甘えたがりの少女はそう願う。
「なにか言った?」
「わたくしも楽しみ、と言ったのよ、アルプ。さあ、もう少しで着きますわ」
そうね、楽しみにしておきましょう。運命のつむぎ車が回れば、きっといつか出会う。
五指の葡萄葉を掲げた馬車は、午後の陽が強く降り注ぐ坂道を、ゆっくりと上っていった。
(つづく)
===
フールシュ=熊手。草刈り鎌君といい、お嬢様のネーミングセンスはがっかり。
黒髪の娘はエティエンヌのステータスシートに記述してある人物です。
エンドブレイカーではないのでキャラ登録はありません。
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